小さな工夫とは、危機だからこそ生み出せず知恵である。

2020.9.1

日本全国の賃貸物件数は、増え続け、人口は減り続けています。近年、相続税対策を理由とした、アパート経営のための貸家建築数は増加傾向が続いており、今後も落ちる気配がありません。

一方で、2020年現在の空き家数は、840万戸。既存住宅の除却や、住宅用途以外への有効活用がこのまま進まなければ、空き家数・空き家率は、約10年後の2033年には、それぞれ2,166万戸、30.4%へ、いずれも上昇する見込みです。

結果として、空き室だらけの街も出てくることは明らかですが、こうした状況下でも、価格競争や空き室放置にならず、求められる物件として維持していくためには、どんな対策が可能でしょうか

外国籍の方は家具・家電付きの物件を好む

日本人の労働人口は減少する一方です。今後、労働人口として、日本に貢献してくれるであろう外国籍の方にとって、住みやすいと感じてもらえる環境づくりは、外せないポイントになるでしょう。

年間50万人ずつ減っていくと見込まれ、2015年には7,728万2千人存在している労働人口は、2030年には852万8千人減の6,875万4千人になってしまうのですから、深刻です。

現状では、一時的にコロナ禍で減少している外国籍居住者ですが、東日本大震災のときと同様、2年後、3年後には、やはり増えていくと見込まれています。

それでは、外国籍の方々が選びやすい部屋とは、どんな物件なのでしょうか。不動産テックマガジンのイタンジによれば、「家具・家電付きの物件」が人気だといい、駅から離れていても、家賃が高めでも、家具・家電つきの物件には人気があったといいます。

慣れない土地で、家具などすべて買い揃えるのには負担も多く、揃っていれば安心できる、というわけです。

そして、一旦入居が決まれば、その後は、口コミにより、部屋が引き継がれていくことも多いといい、外国籍の方々のコミュニティで受け継がれる物件になっていけば、現在のような特殊な状況以外では、安定して入居し続けてもらえる可能性も高くなると考えられます。

気の利いた付加価値サービス

外国籍の方々向け、日本人向けにかかわらず、入居者さんに、タオルや石鹸、洗剤などの雑貨一式を “入居のプレゼント” として用意している物件もあり、こうした小さな工夫も、今後は大事になっていくといえるでしょう。

不慣れな土地で、新生活の準備をはじめる人々にとり、家具や雑貨が用意されていることは、想像以上に安心できる要素になると考えられます。

新生活に向けて、あれこれ用意しなければいけない心の負担がひとつ減り、歓迎されている感覚も得ることができる。

まるで、明日からでも住み始められるような安心感は、小さなおもてなしながら、決め手の助けになるといってもいいでしょう。

ニッチな市場に応える小さな工夫

小さな工夫はまだあります。たとえば、ニッチな市場と聞くと、特異領域のようにも聞こえそうですが、狭くて儲からない市場ではありません。

むしろ、特定の需要が見込める市場と解釈できます。個々人のライフスタイルに特化した住まいを用意する。

様々な選択が可能な時代への転換期でもあり、過去に例のないような個性豊かなご要望も、小さな工夫をすることで、満たせる道はどんどん増えていっているのです。

― 特定需要のゲーム市場

例えば、流行りのオンラインゲームをやる人々は、ネット回線のスピードを重視します。そういった要望があることを把握さえしていれば、適当にネット回線をひいておくのではなく、需要にあった回線を準備しておくことが可能です。

― 特定需要の配信市場

最近では、YouTubeでの配信、オンライン会議、音声配信など、自宅から様々な配信を行う人が増えています。

YouTubeなどの動画配信であれば、背景画像として映る壁紙や絵画なども気になるところで、実際に、絵画をレンタルし、定期的に入れ替えられる絵画のサブスクリプションサービス「Casie」は、コロナ禍にあって急成長を遂げています。

日本国内での音声配信サービス利用者も、年々増加。2020年には2270万人まで拡大すると言われています。 こうした “配信” に携わる人々にとっては、静かな環境が重要になり、外界の喧騒が録音に重なったり、突然鳴り響くインターホンが妨げになったりと、新たな要望が生まれている可能性がありそうです。

些細なことにも見えますが、”遮音” を求めるのは、音楽を奏でたい人だけではない世界が、そこまで来ているのかもしれません。

― 特定需要の1階部屋

いままでの需要にもひと工夫が可能です。一般的には需要が低いといわれる1階の部屋ですが、エレベーターや階段を使わなくて済むため、足のわるい方に好まれたり、足音を気にしなくても済むので、走り回る小さなお子さんのいる方にもメリットとなります。

たとえばここで、もう一工夫。足のわるい方が住まわれることを想定した場合には、部屋のなかも極力段差をなくしたり、高い位置にある棚を引き下ろせるタイプのものに変えておく。

そうすることで、単なる1階部屋ではなく、足の不自由な方を歓迎する物件に昇華します。お子さんのいる方を想定する場合には、部屋の壁紙を明るくしたり、落書きをしても消せる壁紙にしておくなど、特徴が際立つ工夫を付加することで、魅力はぐんと増すでしょう。

部屋の魅力がふくらむ工夫

物件オーナーとして借り手のニーズを考えるとき、駅近や日あたり良好、3階以上など、多くの人に好まれる条件を重視するのが通例なのかもしれません。

しかし、一般的には極小さく見える需要でも、一工夫の温かいメッセージが加わることで、確かに求められる部屋として魅力を膨らませていくことは、まだまだ可能に違いありません。