賃貸のDIYニーズは年々増えている「築年数の浅い古いには関係ないDIY型賃貸」

2020.7.7

退去時には原状回復をすること、という賃貸物件における一般的な基本条件は、近年の消費者動向から、再考の余地がありそうです。

リクルート住まいカンパニーが2019年9月に公表した「2018年度 賃貸契約者動向調査(首都圏)」によると、賃貸居住者でDIYやカスタマイズ経験がある、と答えた人の割合は18%にのぼり、一人暮らしの居住者では4年連続で増加しています。

また、実際にカスタマイズした理由は、1位は「収納が足りないから」が38.4%。年代別にみると、10代・20代では「内装デザインに不満」が最も高く、43.4%という結果でした。

こうした結果から読み取れるのは、居住者が求めているのは、壁を壊すなど大掛かりな作業が必要なカスタマイズばかりではなく、足りないところを補う、好みに合わせてアレンジする、といった工夫の範疇である可能性も大いにある、ということでしょう。

カスタマイズは、築古物件だけの特権か。

同調査で、部屋探しの際に決め手となった項目は、1位「家賃」61%、2位「路線・駅やエリア」38%、3位「最寄り駅からの時間」32.1%、であるのに対し、あきらめた項目の1位は「築年数」26.1%、2位「家賃」22.5%、3位「面積」22.1%でした。

あきらめた項目1位である築年数は、新しい方がいいという概念が根強く存在しているといえる一方で、一定の条件(おそらく清潔感や設備の状態など)を満たしていれば、諦めても問題がなく、考え直しやすいポイントであることもうかがえます。

考え直しやすいポイントであるにもかかわらず、築年数が古いことは、すなわち魅力が劣ること、という固定観念から、部屋探し初期の段階で、選択肢から外れてしまうのは勿体ない話しです。

このような問題を払拭するアイデアとして近年注目されているのが、居住者が自由に内装をカスタマイズできる、DIY型賃貸、カスタマイズ賃貸、とよばれるスタイルです。

しかし、どうでしょうか。

居住者が住まいをカスタマイズする理由は、自身のライフスタイルにあわせ、より住みやすい環境に整えたいためであり、築年数の浅い古いには関係がない、とも考えられるのです。

意思決定を助ける、柔軟な顧客対応。

実際、わたしたちの周りにはつねに沢山の選択肢が用意されているため、一つの選択にながく縛られる心配も減りました。

ネット通販で購入した洋服は、サイズが合わなければ、リメイクサービスを利用したり、YouTubeでお手本を見ながら自分で直すこともできれば、あきらめてフリマに出品することもできるでしょう。

家具や家電をレンタルするサービスもあり、流行りの家電商品をまずは試し、暮らしに定着しそうであれば購入する、といった賢い選択も可能です。

ひとつ迷いが生まれることで、購入や契約に踏み切れないことはとても多く、そうした心理を見越した救済アイデアは、いまや、殆どのサービスに見つけられるのではないでしょうか。

一定期間、居住者とのおつきあいが続く賃貸物件の提供においても、このような顧客対応は、参考にする価値が大いにあるといえるでしょう。

賃貸物件選びの救済策

「物件の現状回復にこだわらず、必要なカスタマイズは、合意のうえで可能とする。」

もし、こうした判断が可能になれば、たとえば、収納が足りないという心配、あまり好みでない壁紙が貼られているなど、決断を迷わせている点があったとしても、後々変えられる、という安心感を提示することになるでしょう。

しかし、賃貸では原状回復が基本であり、どんな工夫もできない、と相談の余地さえないと思われている場合には、気になる部分を受け入れても後悔しないだろうか、という悩みに陥ってしまう可能性も高いのです。

最初の物件見学者が気にしたポイントは、次の人にとっても気になる点である、ということは大いにありえることでしょう。

靴の収納スペースが小さい、という理由だけで、住まい手候補を逃してしまうことも、充分考えられるのです。

最大の財産は、居住者とのコミュニケーション基盤

オーナーにとっての問題は、そうはいっても物件を使い物にならない状態にされてしまうのではないか、という心配がある点でしょう。

こうした不安を解消するために、国土交通省から、2018年4月に『DIY型賃貸借に関する契約書式例』とガイドブック『DIY型賃貸借のすすめ』が発行され、2019年5月には、HEAD研究会による『賃貸DIYガイドライン ver.1.1』が一般公開されています。

また、DIY型貸借の入口に足を踏み入れるためのツールとして、『DIY型賃貸借start book』も発行されており、DIY賃貸借の仕組みと内装制限などの留意点、写真による施工事例がコンパクトにまとめられ、材料調達・相談可能な店舗を確認することも可能です。

このようなツールを活用し、実際に、カスタマイズが可能なレベルについては、賃貸契約時に合意書を交わしておく。

実行時には、居住者から申請書を提出してもらい、オーナーからは承諾書を発行する、といった流れを用意し、居住者とは、必要に応じて、いつでも話しあえるベースを作っておくことが出来れば、問題もおきにくくなるのではないでしょうか。

暮らしている居住者がのぞむカスタマイズは、実は、オーナーには見えていなかったニーズであることも考えられます。

住まいに気になる点が現れたら、気軽にオーナーに相談ができるコミュニケーションの基盤を築き、よりよい提案をしてもらう。

こうした流れを作ることは、物件を育てていくうえでは、大事な財産になっていくのではないでしょうか。