200年の耐久性を持たせる住宅を目指す「住み継ぐことが当たり前の時代へ。」

2020.5.17

私たちが家を新築するとき、「次世代に受け継がれる家」を創ろう、というミッションを視野に入れることは可能でしょうか。

2019年の住宅購入に関するある調査では、ライフスタイルと資産価値のどちらを優先するかという問いに対し、ライフスタイルを優先すると答えた人が、全体の7割近くを占めました。

住宅の購入は、結婚や出産、子供の成長など、ライフスタイルが変化する多忙なタイミングで行われることもあり、売却のことまであまり考えないのが一般的かもしれません。

土地は資産と捉えていても、建築する家も資産になり残っていくという考え方は、いまの日本には余り無いようです。

日本人は家を資産として捉えていない。

アメリカでは、中古住宅購入の際に重視するのは、自分たちが家を出る時点でも、資産価値が下がらないことだといいます。

欧米諸国の家は、長年住み継がれている、ということが良く分かる数値をみてみましょう。

各国の中古住宅流通シェアは、アメリカ 83.1%(2014年)、イギリス88.0%、フランス68.4%(2013年)といずれも非常に高い比率。

一方で、日本のシェアはなんと14.7%(2013年)という圧倒的に低い数値なのです。

日本の住宅が空き家になるのは、住人不在となった後、売却されることもなく、賃貸に出されることもなく、どうする事も出来なかった物件がほとんどだといいます。

空き家バンクなどをのぞいてみると、価値付けが難しそうな住宅が多いのは事実であり、新築購入者が大多数という現状の一端が、建物の価値が維持できていない、という点にあることは納得せざるを得ません。

2018年に総務省が発表した「住宅・土地統計調査」によると、2019年の空き家率は、過去最高の13.6%(846万戸)に達しました。

家は時代に合わせて常にアップデートしていくもの

「日本の古民家は住みにくくなったから捨てられた。時代に合わせないと。」

新潟県十日町市竹所(たけところ)の集落で、古民家の再生を続ける、ドイツ出身の建築デザイナー、カール・ベンクス氏は、あるインタビューでこう語っていました。

ベンクス氏は、1993年ドイツからの出張時にこの地を訪れ、古民家に一目惚れして購入。

その後、1995年に移住を果たして以降、いまも続く、ベンクス氏の古民家再生事業の特徴は、現代向けに住みやすく修繕すること。

築100年以上経つ古民家を作業対象とし、柱や梁などの骨組みは再利用します。

壁の色は、淡いピンクや黄色に塗り替えられ、寒冷地でも快適に過ごせるよう、床暖房を入れ、断熱材の厚さは通常の倍の10センチへ。

窓には、結露しにくいドイツ製ペアガラスを使うなど、徹底して、”今の人” が住みやすい家に作り変えていくのです。

200年の耐久性を持たせる住宅

現在では、日本の古民家再生事業は、潜在的市場規模 約1.8兆円という試算もあるビジネスになっています。

良質の素材で、丁寧に作られ、躯体のしっかりしたモノの価値を、後世のためにも見直す時に来ているということでしょう。

木造住宅の寿命は築30年といわれることがありますが、構造上の耐久性という意味では、現代の家であっても、100年近く優に持つのが実状です。

但し、住宅に使用されている設備や仕上げ材の多くが、約30年で寿命を迎えるため、構造に問題がなくても、表面上古くなり、修繕が必要になるのが、25年~30年目。

そして、そもそもリフォームを考慮して建てられていない物件では、一部だけ修繕するのが困難なこともあり、結果として、丸ごと建て替える、という選択をせざるを得なくなるのです。

こうした背景のもと、住宅の寿命は30年という数字が広く使われるようになっていますが、修繕しながら200年~300年の耐久性を保てる住宅は、実は、存在するのです。

ライフスタイルに合わせて変化する住宅

100年先まで価値のある住宅にするためには、リフォームしやすく、丈夫な骨組みの家をつくること。

建築の知識がなくても、確実にそんな家を建てるには、どうしたらよいでしょうか。

その答えの一つとなり得るものに、スケルトン&インフィルという構法があります。

スケルトン&インフィルとは、建物のスケルトン(構造躯体)とインフィル(間仕切り等の内装)とを分離した構法で、古民家のように、躯体だけを残してリフォームしていくことが可能なもの。

木造でありながら、地震に強く、長く住み継げる家として資産価値を保つことができます。

たとえば、間取りの組み換えなどがし易いため、変化していくライフスタイルに合わせて、子育て時、夫婦のみ、バリアフリーへ、といった変更がしやすいのが特徴です。

躯体が丈夫で用途変更がしやすいとなれば、我々の見ることのない未来でも、住宅ではない使われ方で残っていくことも考えられ、取り壊したり、丸ごと建て替える場合と比べ、建築資材のロスを最低限に抑えることも可能。空き家を増やさないのみならず、地球環境にも貢献することになるのです。

使い捨ての家ではなく、次世代に引き継がれる家へ

大切に受け継がれ、人気のあるものといえば、北欧家具が思い浮かびます。

1940年代に、FDB(デンマーク協同組合連合会)の家具部門が、デンマーク国民を豊かにする目的で「良質、高い機能とデザイン性、買いやすい価格」という目標を掲げ、造られてきた家具です。

高い技術、普遍的な優れたデザインのヴィンテージ家具は、最高級の素材を使ったものが多いため、決して安くはありません。

しかし、使い方やメンテナンスによっては、100年以上も十分に活躍できるだけの優れた品質を持ち、価値が認められているのです。

この黄金時代(40年代から60年代)に誕生した家具を求め、いまも世界中からバイヤーが訪れており、状態の良い製品は、手に入りづらくなっているといいます。

今も昔も、家も家具も、品質が良く、ストーリーのある温かいモノは求められ続ける、ということではないでしょうか。

既出のカール・ベンクス氏が「古い家のない町は、思い出のない人と同じです」という言葉を東山魁夷氏から贈られたというエピソードがあり、印象的です。

これからは、住み継ぐことが当たり前になっていく

近年、宅地建物取引業法の一部が改正され(2018年4月より施行)、中古住宅の売買契約まえに、住宅診断(ホームインスペクション)を推奨することが義務化されました。

診断内容は、建築士など住宅の専門家(インスペクター)が、第三者的な立場から建物の劣化状況や欠陥の有無、修繕すべき部分やその時期、費用などを調査してアドバイスをするもので、費用はかかりますが、外観だけではわからない、構造上の品質を確認することが出来ます。

こうした法の整備の助けも得て、日本でも、より安心して、質の良い中古住宅を選び、残せる時代へと向かいはじめた大切な時期。

住み継ぐことが当然の概念として定着すれば、我々の住まいを選択する目も、次第に肥えていくでしょう。

盤石な土地、頑強な筐体、地域特性との相性や飽きのこないデザイン性。

資産価値の下がらない家づくりは、後世に続く人類にとってもいいモノづくりである必要があります。

結果として、魅力なく放置される、空き家問題に悩む日本社会の一助にもなるのではないでしょうか。